数億年ぶりに甘かったバレンタイン
シャラララ 素敵にキッス
シャラララ 素顔にキッス
バレンタインデーだぜお前ら、アーン
もちろん歌い手は永遠の中学生、テニスの王子様達だ。
脳内で諏訪部や置鮎が甘い中学生ボイスで歌う様を想像しながら再生してほしい。
昨日はバレンタインデー。
アベック達が浮かれ騒ぎ、むくつけき紳士や慎ましい大和撫子たちがその狂乱を冷めた目で見つめる。クリスマスに次いで日本国土が沸点と凝固点で著しい温度差に襲われる日だ。
無論安心召されたし。
私も慎ましい大和撫子。日本淑女はそう軽々と恋人など作るわけもなく、向こう五億年一人で過ごしてきている。アベック達が油分の塊を美味そうに食べる様をせせら笑って生きてきた日陰に根付いた陰の使者だ。
でも今年は…
しかしそんな私も今年は送る相手がいる。
厳密には送りつけたい相手だが。
もちろん推し!推しさんだ。
もう口にするまでもない。
私の最近の生活は推しによって構成されている。ついこの間まで敬遠されていたのに何故かまたバランスが崩れ始めている。なんでや?
こういう日常の変化や機微をもっと書き留めていくべきだと書きながら実感。
人間とは忘却と共に生きる生き物、己の変調に敏感に生きていきたい。
計画された犯行
もともと推しには
バレンタインにはチョコを渡したい、受け取ってください
と犯行声明を出していた。申し上げた際には
「めっちゃ先やん」
と爆笑を攫ったものだが、バレンタインが近づいた先週ごろ今一度
本当はもっといいの買えるけど自重したやつ買いました
と改めての犯行予告。
「あかんで!高いのやめてや!」
とリアルな反応に思わずニンマリ。推しが何しても可愛い。箸転がしても爆笑できる自信ある。
待ちに待った当日。
化粧気合い入れすぎてグレートムタみたいになったし、切って間もない前髪を扱えず横毛は松田聖子に。コンディションは最悪。しかし今日こそここが関ヶ原。意を決してイザイザ!
戦場は上々
神のお恵みにより奇跡的にデスク周りに推しと幼気な新人ちゃんしかいない時間が訪れる。
今ぞ好機とドドデンと乗り込んでやった。
もちろん手にはチョコレートを持って。
ちなみに今回購入したチョコはこちら。
マブダチでありチョコレートジャンカーとして名を馳せるゆいたんのセレクト。これは間違いない。
正直もっといけた(金額)が、これ以上行くと引かれそうなので自重した。
ひっそり事務所の奥で作業にはげむ推しさんに近づいていく……
怒涛の萌えラッシュ開幕
「推しさーん」
いつも反応をくれるのはひとつ、ふたつ、みっつ。少し時間を置いてから。
そのあと気怠げにこちらを節目がちに横目で見る。その流し目が最高にかっこいい。
そっと持っていたチョコの袋を見せつける。
これ!推しさんに。
何だか照れ臭くってにへにへと笑ってしまうのはご愛嬌。私の差し出したチョコに推しさんがまたワンテンポ遅れて反応する。
「あぁ、今日ね。あの日やったか」
朝から一番末の後輩が会社女子からとチョコを渡していたから知っていたはずなのに!照れ隠しのすっとぼけが堪らない。
ちょっと袋大きくて、中小さいから。恥ずかしいんです汗
ととにかく照れ隠しでしどろもどろに説明すると、予想外に推しさんが目の前でチョコを取り出してくれる。手に収まるオレンジの箱に、間抜けな付箋がひとつ。私からのささやかな感謝状。
ただ推しさんの性格的にマジで読まずに食べはせんけど捨てちゃう可能性がある。なんて残酷な黒ヤギさん。怖くて泣いちゃった。
ちゃんと読んでくださいね、捨てる前に!捨てると思うけど!
何度も何度も懇願に近い念押しをする。乾いた笑いを漏らして間抜けな顔の付箋をペラリ。
「いや、ちょっと長いわ」
さりとてなん。
便箋は重いと付箋に変えて、付箋にぎちぎちに文字を詰めたのだからそう思われても仕方がない。苦笑いの上の失笑は然るべき成り行きだ。でも読んでもらえなかったとしても今この瞬間、笑いを取れたのならそれで良い。
「これ、あけていいやつ?」
となんと推しさんが紙袋の中の小箱を取り出してくれる。そそそそそんな!望外の出来事に照れすぎてまた私の口からは擬音しか出てこない。
「あかんわ、シールめっちゃ貼ってるわ」
開けようとしてくるも箱には(当たり前に)シールが貼られていた。推しさんの綺麗に切り揃えられた爪では開けることは叶うまい。
いやいやそんな、全然!
慌てている間にぺろっとシールを剥がした推しさん。その指はいつもより何だか色っぺえ。
「お、いいやん。これええチョコちゃん?」
うーーーーん、ほんまはもっといいチョコ渡せたんですけど出禁になりたくないから自重しました。ちょうどええチョコです笑
「ふーん、恥ずかしいからまた一人になったら食べるわな」
感謝状捨てる前に読んでくださいよ!読んでください!絶対!捨てる前に!
「それ今ここで読めってこと?」
ちゃうちゃうちゃうちゃう、何でですか!
小さく笑いの花が咲いて心はもうほっこほこ。
クールでダウナーな推しさんは照れ隠しだろうか。大袈裟に合掌しておどけてありがとうと言ってみせた。
あのチョコの行方も、感謝状を読んでくれたのかも全部全部分からない。分からないけど。こんなに楽しいバレンタインは学生ぶりだった。本当にときめきをありがとう。
最後にいいですか?
「何?」
それ、、、推しさんが、食べてくださいね。推しさんが。
「勿論やん。当たり前やん」
数億年ぶりにちょっと甘いバレンタインになりました