淑女失格

淑女たるもの日々是書き留める可し

推し、萌ゆ

 

推しに萌えた。
少しひねた笑顔を見せたらしい。まだマスクをつける時期なので確信は持てない。何ひとつ確信できていないにもかかわらず、それは一瞬で急速に萌芽した。息苦しい日だった。虫の知らせというのか、営業は午後からみんな外出し、進捗を確認しようと推しのもとを尋ねると推しのデスクがやけに白々しい。惚けた目が〈推しの目元が歪に半月を描いている〉という光景をとらえ、一瞬、現実味を失った。脇の下に汗が噴き出した。彼のご尊顔を確認したあとは、マスクの下の口角を緩ませ「あー」だとか「うー」だとか声にならない音を発するよりほかなく、心の中で延焼し萌えが広がるのを感じながら推しの機嫌だけが気がかりだった。

【引用・改変:「推し、燃ゆ」宇佐見りん 河合書房新書】


唐突だが職場に推しがいる。
そんな近い距離に推しがぁ?と諸兄諸氏たちは疑問の念を抱かずにはいられまい。しかしこれが存在するのだ。

推し関しては、彼の魅力を語るにはあまりにも時間と私のボキャブラリーが足りない。そして何より、誰にも知られたくないというおしゃまな乙女心が邪魔をするため割愛させていただく。

勿論かつてよりの私が信仰する
キモ・オッター教心酔派の教義
【推しは遠くにありて思うもの】を堅く守り破る気は毛頭ない。
さらに言えば【私になど一ミリの興味のない、むしろ話しかけるとちょっとウザそう】な推しが猛烈に好き。萌える。セクシー。世界セクシー大使。
物理で距離をどうこうしようとは塵芥も思わない。ご安心召されよ。

ただ職場に推しがいるという事実は生活の質を向上させ、著しいモチベーションになる。
恐らくマサチューセッツ工科大学の偉い先生とか、スタフォード大学の権威がその手の研究をしたら間違いなく高い精度で効果が立証される筈だ。
辛い時に効くのは推し、悲しい時に効くのは推し。万国共通のオタクの一般教養である
(そして悲しいかな。心に激痛や、悲しみの豪雨を降らせるのも推しであることも事実だ)

今後忌むべき労働社会にて心が折れた際に本日拝領した(無意識の)ファンサを思い出して元気を出したい。
その為に本日の日記にかいつまんで書いていきたいと思う。
そして萌えすぎたのでこちらをネタにいつかogt夢を書きたい。
創作意欲や書きたいものは山積しているがそれをマッハのスピードで上回るほど、現在読み進めているシャーロックホームズが面白すぎることが悩ましい。

 

・お菓子食べてくれる推し

ここ最近毎日のようにお菓子を与えている
今日も与えようとしたがキモがられては嫌なので先制攻撃で
「最近私、推し(仮称)にお菓子あげすぎてやばいですよね??
 俺のこと肥えさせて食おうとしてんのかな?って感じですよね。
 荒地の魔女みたいに思ってますよね???
 自重したほうがいいですよね???」
と2秒の間に早口で情報を詰め込む

『そういえば最近くれがちやな。
魔女ね笑
 たしかに思われたら嫌やろうな』
「いや、そこは思ってないって言ってくださいよ〜!!!!」
『笑』
「え〜〜〜!!!推しさん出禁になりたくないから自重します」
『いや別に食うけど』

くうんかーーーーーーーーーい!!
自重せんでええんかーーーーーーーーーーーい!!!!!!
この時点で心の中のリトルまこは鏡をハリウッドスタンドばりの姿勢でぶち破り外へ飛び出していた。
強くなって帰ってこいよ。


・ちょっとほくそ笑む推し


推しに「友達から推しの話聞いたけど私の推しの方が全方向、360度勝ってました!圧勝だったんです〜」と露骨な褒め言葉

『職場の推し?』

と恐らく聞いたことのない概念に困惑するもちょっと見下した感じでせせら笑いながら

『私の推しってなんなん?私の推しって何?』

「あわ、それは、いや。出禁になりたくないから言えないですけど!出禁になりたくないから言えないですけど!とにかくぶっちぎりで勝ってたんです!!」

『ふーーーーん、勝ち負けとかじゃないと思うけどな笑』

はい。死罪。
可愛すぎるの刑で打首獄門、後に市中引き摺り回しの刑。
私が。

オタク愛の流刑地にて私の首を晒してくれ。


・ほんまにお菓子貰いにきた推し


絶対用もないのに突如私のデスク前の文房具をあさりに来た推し。
見えすいた餌。百均で買ったレベルのルアー。そんなもので30の女が釣れると思ってんのか?

釣れるんだなぁこれが。

推しさんに必死のアピールであげたかったお菓子を掲げる。鼻息が荒すぎて恐らくマスクがぺこぺこしていた。客観的にみて珍獣。
本日は同じデスク島がすっからかんであった為、推しに火を見るよりも明らかな事実報告。

「見てください!今日自由なんです!アツいでしょ!!!」
『ほんまやな、へぇー。17時までおらんねや』

白々しい上滑りの会話を心の底から楽しむ。オタクにかかれば百均のルアーも三つ星フレンチフルコース。二度と口から離さない。
意味のない雑談や噂話に興じていると推しが手のひらを差し出してぶんぶんぶんと降り始める。
すんませんその手切り落としてサンドイッチすりすりしていいすか?
吉良吉影にとってのモナリザの手は、私にとって貴方の手首です。小指のムダ毛もSo Cute。私のハートは猛beet。

『くれんねやろ?』
「もちろんです!!!!!」

お菓子をお顔近くまで近づけて見て見てと猛烈アピール。

『うわ、なんやねん』
少し大袈裟にのけぞる。
「あっ、やば殺される。目、焼き切られる!」
『見せてみ』
二人でお菓子の成分を確かめた後しっかり一つ手に取って食べ始める推し。

『ありがと』

ええーーーー!!!!
掃き溜めに生まれしごみみたいなデブ女に感謝の言葉言ってくれたのーー??????
なんなのーーーーー??人間として最低限のマナーだとしてもこっちは底辺ゲロシャブ属性オタクだよーーーーーー??????

ありがとうで四度目の絶滅を迎えたまこ惑星は残すところあと一つの絶命で生態系を変える。
終末の時は近い。


・褒めてほしい推し


ちょっと誇らしげに成果物を持ってきてくる。
ちょっとおすすめポイントとかブッキラボーに言うてくる。
髪の毛全部抜け落ちるかと思った。
抜け落ちたらそのままヘアドネーションに使います。

勿論褒めちぎる。
というか事実最高の仕上がり。
拍手までする。
ちょっとはにかんでる。

 

 

やはり推し is beautiful
今日も最高のモチベーションでした。